2017年6月4日日曜日

カスタマーサクセスチーム立ち上げ期によくある3つの失敗談

カスタマーサクセスというキーワードが広がってきたことで、自社でもカスタマーサクセスに取り組もうとされる会社が増えてきました(仲間が増えてとてもうれしい!)。最近はそういったチーム作りに関するご相談をお受けすることも増えてきましたが、いくつか共通の悩みがあることに気づきました。
というわけで3つの典型的なケースから、カスタマーサクセスチーム立ち上げ期に気をつけた方がよいなと思っていることをまとめてみました。

失敗談(1):既存のチームをカスタマーサクセスと名付ける

そもそもカスタマーサクセスに取り組もうと考えるのは、お客さまがうまくサービスを使ってくれず、それによって解約が発生してしまうといったような課題に直面したときです。
つまり、その時点で一定の規模のカスタマーはついているので、社内にはプロダクトを作ったり、基本的なサポートをしたり、セールスするメンバーはいる状態でチーム作りを考えはじめられることが多いようです。

そのためか、既存の組織や役割の派生でカスタマーサクセスに取り組もうとしていることがあります。「うちもカスタマーサクセスを始めたので相談に乗ってください!」という方のお話をよくよく伺うと、以下のようなミッションをお持ちだったりします。

  • セールスと兼務していて、継続契約からの売上目標を持っており、持ち前の営業力で継続受注を獲得している
  • テクニカルサポートを担当していて、カスタマーからの問い合わせ返答件数や返答率を追いかけている

これらは「カスタマーサクセス」なのでしょうか? 既存のセールス担当やカスタマーサポート担当と、何が違うのでしょうか?

スローガンとしてのカスタマーサクセスと、役割としてのカスタマーサクセス

昔から「顧客満足」「顧客本位」「カスタマーファースト」といった、お客さま重視を標ぼうしている企業がたくさんあるように、「カスタマーサクセス」もまた、お客さま重視をうたうことができる、もっともらしい概念です。しかし、具体的に何をすることが「カスタマーサクセス」なのかを定めずに、スローガンとしてカスタマーサクセスを掲げることにとどまってしまってはいないでしょうか?

もちろんセールスやテクニカルサポートもスローガンとしてカスタマーサクセス(顧客の成功)を目指すべきだとは思います。一方で、セールスとして、テクニカルサポートとして上を目指せば良いのであって、役割としてのカスタマーサクセスはそれとは別に考えた方がよいでしょう。

サクセスが先、結果は後

当初の課題に立ち返ると「自社のサービスを使ってくださるお客さまが当初の目的を達成でき、継続的に自社のサービスを使ってくれる状態を作りたい」のであって、それを実現することがカスタマーサクセスの役割です。だからこそ、役割としてカスタマーサクセスを目指すチーム(または目指す担当)を置いた方がよいのではないかと考えています。

そもそも、解約阻止がゴールであれば、できることはたくさんあります。極論ですが、値引き対応することやお客さまを接待すること(!)でも解約阻止はできるかもしれません。けれど、それって意味ある行為でしょうか。「場当たり対応」ではなくて、自社のサービスで勝負したほうがよいですよね。だからこそ、解約阻止のためにサクセスさせようとするのではなく、カスタマーを本来のゴールに導き、サクセスできることでサービスを継続利用してくれる状態作りそのものを目指すチームが必要です。

学び:カスタマーサクセスそのものを役割としたチームを創ろう

失敗談(2):リテンションレートをKPIにしてしまう

カスタマーサクセスチームをつくったときに、最初に決めるのはチームのゴールです。多くのカスタマーサクセスチームを持つ企業と同様に「リテンションレート(契約更新率)をあげる」「チャーンレート(解約率)を減らす」といった目標を設定することになると思いますが、それをチーム立ち上げ期のKPIとしてしまうことはオススメできません。なぜでしょう?

それは、契約更新のタイミングまでおこなったアクションの正しかったかどうか、成果がわからないから。1年や半年契約の場合はもちろん、月額課金モデルでもB2Bビジネスの場合はカスタマーは予算を通した期間は使い続けてくれることも多いし、解約するのにも意思決定に時間をかけます。つまり、リテンション率は、結果指標であり遅行指標なので、日々の活動を追いかけるKPIとして向かないのです。

リテンションレートの手前にあるKPIをみつけよう

そこで実施したいのが、KPIを分解していくこと。リテンションしてくれるカスタマーを想像しながら、カスタマーがどんな行動をしているか、どんな状態であるかを想定しながらピックアップしていきます。
「ログイン率がこのくらいになるとサービスを活用してくれているはずだから更新してくれるのではないか」「◯◯機能を使ってくれると価値を感じることができ更新してくれるのではないか」「こういう行動をしてくれていれば満足しているといえるのではないか」といった仮説をもとに、チェックポイントの候補をリストアップしていきます。
そして、できれば実際のデータも確認しましょう(チーム発足当初は、プロダクトもリリース直後でまだ契約更新のタイミングが来ていなかったり、必要なデータが取れていないケースもありますが)。

長く活動されている他社のカスタマーサクセスチーム事例などを聞いてみても、ゴールをリテンションレートとしながらも、クライアントの状態や行動にフォーカスしたKPIを持っているようです。「逆説のカスタマーサクセス」イベントのときにも紹介しましたが:

  • プロジェクト成果:目標達成率、ROI など
  • ユーザ行動:ツールログイン率、◯◯機能利用率、問合数 など
  • コミュニケーション:質問回答率、要望フィードバック率、イベント参加率、意思決定者面会率 など

などを挙げられるケースがありました。こういったKPIであれば、実施した施策が成功したかどうかがすぐにKPIの変化となって現れてきます。アクショナブルなKPIを採用することで、日々の活動をより具体的なものにすることができようになるのです。

そして、こういったKPIは、ほんとうにリテンションレートの向上に寄与しているか、定期的に検証をすることを忘れずに。

学び:カスタマーのサクセスが測れる行動指標や状態指標をKPIにしよう

(追記)このお話は、「新・逆説のカスタマーサクセス」でもお話させていただきました。


失敗談(3):あれこれ悩んで業務の効率化からはじめる

カスタマーサクセスチームの立ち上げ期は、さまざまなタスクに追われます。
そんな中、いま取り組んでいるカスタマーとの取り組みそのものを効率化することで時間を捻出しようとしているケースがありますが、これもやめたほうがよいです。まず、業務そのものの必要性・重要性を見直すことからはじめることがオススメです。

効率化・しくみ化は、サクセスの法則がみつかってから

ある程度カスタマー数が伸びてきていれば、カスタマーに対してどんな活動をすると喜ばれ、または喜ばれないかといったことは把握できていると思います。しかし、喜ばれてると思っている活動を効率的に推進できるようになったとしても、カスタマーのサクセスに結びつかないことがあります。

  1. その活動がカスタマーのゴールと結びつかないから
    例えば、クライアントとの接触頻度を増やすことで課題をさぐろうと週次定例を始めたのに、定例会の開催自体が目的化してしまったといったケースです。
  2. その活動が実は「ありがた迷惑」だったから
    例えば、ツール上である作業をおこないたいとします。カスタマーサクセス担当は「作業にコツがいるから代わりにやるので必要なときはメールで教えてください」と気を利かせたつもりでも、カスタマーは「自分でやりたい」「連絡から完了までに時間がかかりリアルタイムに終えられない」と不満に思っているかもしれないのです。

答えはカスタマーに聴いてみよう

以上から、作業の効率化から始めるのではなく、やること、やらないことの取捨選択と優先順位付けからはじめたほうがよいと考えています。そのためには、カスタマーのゴール達成のために必要なことは、直接カスタマーから聴いてみたらよいでしょう。インタビューの時間を用意してもよいし、カスタマーと話す機会があるなら、雑談の中で把握できることもたくさんあります(意外とお話しいただけますし、そういう関係性を普段から作っていきたいものです)。

そして、そこで得られた仮説をカスタマーとのプロジェクトを通じて、カスタマーの反応とゴール到達への影響度を見ながら、ブラッシュアップを続けていくイメージです。効率化は、その後でも遅くはありません。

学び:カスタマーにインタビューし、仮説検証を繰り返そう

さいごに:スキルやしくみの「車輪の再発明」をしない

そして、カスタマーサクセスを実践するためのスキルやしくみの多くは学ぶことができます。カスタマーサクセス自体は比較的新しい概念ともいえますが、カスタマーサクセスに必要なスキルセットは多くの書籍やコンテンツでカバーできるからです。
例えばスキルセットを分解すると、コミュニケーションやファシリテーション、プロジェクトマネジメント、テクニカルスキルなどは関連書籍がたくさんあります。しくみや組織の観点に視点を広げると、コンサルティング、コンタクトセンター、ソリューション営業などの領域のノウハウが役に立つこともありそうです。

そして、チームの立ち上げ期は社内にはメンバもノウハウも少なく試行錯誤を続けてくことになり、ときには煮詰まってしまうこともあります。だからこそ、社内やチームの中で悩んでしまうのではなく、答えを社外で探してみるのもよいのではないかと思います。
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