いっぽう、その業務の中身は企業によってさまざまです。カスタマーサクセスという言葉はわかりやすく共感を呼びやすい考え方だという理由からか、カスタマーサクセスという組織名であっても実態はセールスやサポート部隊ということもあります。
定義自体もまだまだあいまいなカスタマーサクセス。求人票に飛びつく前に、その企業のカスタマーサクセスの実態を次の3つの観点から確認してみることがオススメです。 それぞれの項目で、求人票では明らかにされづらい、こちらから質問すべきチェックポイントもまとめています。
(1) 組織
企業がアクションをおこすときには、なんらかの目的や理由があります。とくに組織をつくったり、人材を社外から採用するのは大きな意思決定です。その企業がカスタマーサクセスを始めたり、大きくする理由がどこにあるのかによって組織の目標は変わり、結果的にカスタマーサクセスマネージャーに求められる役回りも大きく変わってきます。
さまざまな企業のカスタマーサクセスマネージャーの方々からお話をうかがってみると、カスタマーサクセスに取り組むことになった背景は以下の3つに集約できるように感じます。
- セールスの課題:売上(リテンションも含みます)が思うようにあがらない。
- サポートの課題:問い合わせが多く対応しきれない。対応の満足度が低くクレームにつながってしまう。
- プロダクトの課題:カスタマーのニーズに合致したサービス提供ができていない。
しかし、企業がどの課題に対応するためにカスタマーサクセスを強化しようとしているのかによって、組織の立て付けも変わり、継続率向上のためにおこなう活動も変わってくるというわけです。
私の勤めるサイカでも、そのときの戦略によって、カスタマーサクセス組織を変えていきました。
とくに気をつけたいのは、カスタマーサクセスチームが営業組織の配下にあり、カスタマーサクセスマネージャーのシゴトが実質的な営業や営業サポートになってしまっているケースです。
営業活動とカスタマーサクセス活動はときに相反する活動になることもあり、思い描いているカスタマーサクセス活動がその企業で求められているか、評価されるのかを充分に確認すべきです。
入社前に質問してみよう
- なぜ会社として、カスタマーサクセスに注力することになったのですか?
- カスタマーサクセスチームは、どの部門の配下にありますか?どの部門と一緒に働くことが多いですか?
- カスタマーサクセスチームの部門長(またはカスタマーサクセスチームを所管する上長)は、どの部門出身の方ですか?前職では何をしていましたか?
- カスタマーサクセスチームのKPIはなんですか?(リテンションレートだけではなく、アップセルや売上の目標を持っていますか?)
- チームの中のとくに優秀なカスタマーサクセスマネージャーはどんな成果をあげていますか?(どんな成果が評価されていますか?)
(2) フェーズ
組織や取り扱うサービスやプロダクトのフェーズによって、カスタマーサクセスマネージャーに求められる立ち回りは大きく変わってきます。フェーズによって、異なる課題に向き合っていく必要があるからです。例えば、あなたがスタートアップのような小さな組織でサービス自体のプロダクトマーケットフィットを模索しながら組織や業務を作っていくことを通じてカスタマーサクセスを実現したい場合と、ある程度できあがったサービスを提供するためのしくみや目標が定まっている中でそれを実現したい場合では、目指すべき企業は変わってきます。
フェーズによって取り組みが変わってくるというこの考え方は、3月に開催したイベント「逆説のカスタマーサクセス」でのトークセッションでもご紹介させていただきました。
例えばサービスをすでに多くのカスタマーに長期間にわたり提供しているセールスフォースさんと、リリースから半年程度のサービス提供に取り組むサイカでは、活動の内容は変わってきます。
イベント「逆説のカスタマーサクセス」資料より |
入社前に質問してみよう
- カスタマーサクセスチームは、部署としていつ作りましたか?
- 担当するサービスやプロダクトの顧客数はどのくらいですか?
- 担当するサービスやプロダクトには、いまどんな課題があると思いますか?
- いまカスタマーサクセスチームとして取り組んでいる課題はなんですか?
(3) 業務範囲
ここでは「求められる役割の違い」「ビジネスモデルによって異なる活動の違い」の2つの観点から考えていきます。求められる役割の違い
1つめは「求められる役割の違い」は、カスタマーサクセス業務の分担のししかたについてです。当初少人数で作ったカスタマーサクセスチームも、顧客の増加やサービスの多様化によって規模が大きくなってきます。すると、カスタマーサクセスチームの中で担当を細分化していく必要が生じてきます。その際は、機能別か顧客別に分けていくことが多いです。
まず、機能別の分割は、カスタマーサクセスが持っている役割を、提供メニューごとにわけていくケースです。導入サポート、トレーニング、コンサルティング、サポートなどにそれぞれ専門担当者をアサインしていくイメージです。
次に、顧客別の分割とは、カスタマーを受注規模や提供サービス、業界などを軸に分類し、それぞれをチームとして分けて担当していく手法です。機能別と顧客別を組み合わせて組織を作っている企業もあります。
カスタマーサクセスの求人を探すときには、専門特化していきたいのか、または特定のカスタマーと一貫して向き合いたいのかを考えておいたほうがよいでしょう。
なお、ジョブディスクリプションベースでポジションの募集をする外資系ベンダーでは、役割が細分化されている傾向が強いです。
ビジネスモデルによって異なる活動の違い
2つめはビジネスモデルによって異なる活動の違いについてです。企業がビジネス活動を続けていくためには原資が必要で、カスタマーサクセス活動ももちろん例外ではありません。
価格体系が柔軟に設定できるサービスであればカスタマーサクセスにかけられる原資も大きくなりますし、提供価格が安いサービスでは個別カスタマー向けの活動は難しくなります。
そのため、価格体系によってカスタマーサクセスがとるべき戦略が変わってきます。
提供価格が高いサービスでは、コンサルティングやカスタマイズを含んだ個別の対応が選択肢に含まれるのに対して、提供価格が安めのサービスでは、共通資料の提供やセミナーなど、しくみで対応できる「1対多」スタイルでの提供ができる活動に限定されやすくなります。
この考え方を書籍「Customer Success」では、前者を「ハイタッチ」、後者を「テックタッチ」と表現しています。
それぞれの活動内容が異なるため求められるスキルもアクションも異なりますが、多くの企業は効率を求め、今後より「テックタッチ」な活動によるカスタマーサクセス実現の可能性を追求していくことになるのではないかと考えています。
入社前に質問しよう
- カスタマーサクセス部署の中は、チームに分かれていますか?分かれている場合、どのように役割分担をしていますか?
- 今後チームが大きくなってきたら、どのような役割分担をしようと考えていますか?
- 担当するサービスやプロダクトの顧客あたり単価はどのくらいですか?
- カスタマーサクセスにつながるアクションをおこなうときは、追加で料金が発生しますか?(請求していますか?)
さいごに:そのサービスのイチバンのファンになれるか?
ここまで「組織」「フェーズ」「役割」の3つの観点からまとめてみましたが、自分に合った求人を見つけるにあたって最も大事なのは、その企業が取り扱うプロダクトやサービスに共感できるかです。カスタマーサクセスマネージャーが、カスタマーに提供するのイチバンの理解者でありファンでいる必要があります(でないと、ホンキでカスタマーをサクセスさせられません)。
というわけで、ぜひ共感できるサービスと自分のやりたい活動ができる組織をみつけてカスタマーサクセスマネージャーになっていただき、カスタマーサクセス界隈を一緒に盛り上げていけるようになれたら、最高にうれしいです!